2026.05.05
Q. 身体拘束についていつも頭を悩ませています。施設の中でも認知症の方が非常に多く、また要介護度も重度化する傾向がある中、利用者さんの身体を拘束せずに、かつ転倒や転落の事故を予防し、家族からは最高の介護を求められる…。「そんなの、できない !」と思いつつ、毎日途方にくれながら介護をしています。
A. いったいどこまでの介護が求められるのか? 非常に難しい問いかけですね。
高齢者になるまでは、社会から疎外されていたような人が、いざ高齢者になり施設に入った途端、至れり尽くせりの介護を受けることができ、その延長線上で、ベッドを壁側につけただけでも身体拘束である、と行政からも指導を受け、かつ家族からは事故があった場合、「元気だったあの頃のおばあちゃんに戻してくれ!」と罵詈雑言を浴びせられ……。
話を元に戻しましょう。
身体拘束についてのご質問でしたね。身体拘束をめぐっては最高裁での判決が出されました。
これまでは精神病院を舞台とした身体拘束に関する裁判がほとんどであり、最高裁にまでいったような事例はなかったのですが、今回の事例は精神科病院ではなく、介護施設や医療機関での初めての身体拘束裁判であり、かつ最高裁にまで進み判決が下された点で、非常に意味のある事例です。
事故当時80歳であった高齢女性は、意識混濁や精神運動興奮、錯覚、幻覚を伴う可逆的意識障害と診断されたせん妄状態で、一般病院に入院し治療を受けていましたが、興奮しベッドから起き上がろうとする動作を頻繁に繰り返したため、看護師が抑制具であるミトンを使用して、高齢女性の両手をベッドの両側の柵にくくりつけました。
その2時間後、高齢女性の入眠を確認してミトンを外したという事実について、高齢女性と家族が両上肢をベッドに拘束したことは、診療契約上の義務に違反する違法な行為であるとして争ったものです。
まず、二審の名古屋高等裁判所は、「患者の夜間せん妄は高齢の上、頻尿で排尿について過度に神経質になっていたころに入眠剤マイスリーの投薬中止もしくはリーゼへの切り替えによる不眠とオムツへの排泄を強いられたことへのストレスなどが加わって起きたものであり、当直看護師の必ずしも適切でない対応もあって、それが治まることなく、時間の経過とともに高まったものと認められ、患者のせん妄に対する対応としての身体拘束に切迫性、非代替性があるとは直ちに認められない上、患者の排尿やオムツへのこだわりを和らげ、落ち着かせて入眠するのを待つ対応が不可能であったとは考えられないなどとして緊急避難行為として例外的に許される場合に該当するといえるような事情も認められないと判示し、本件拘束の違法性を認める。」という内容でした。
しかし最高裁判所では、「入院患者の身体拘束は、その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる場合にのみ許容されるものであるが、患者は当時80歳という高齢で、他病院で4か月前に転倒して骨折しており、10日程前にもせん妄状態で転倒したことがあったこと、看護師らは4時間にもわたって患者の求めに応じて汚れていなくてもオムツを交換するなどしたが、患者の興奮状態は収まらず、また、勤務体制からして深夜長時間にわたり看護師が患者に付きっきりで対応することは困難であったこと、看護師が患者の入眠を確認して速やかにミトンを外したため、拘束時間は約2時間であったことなどの事情の下では、本件抑制行為は患者が転倒、転落により重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行われた行為であって、診療契約上の義務に違反するものではないと判断する。」というものでした。
最高裁のこの判決によって、現在の介護・医療水準と人員や設備、運営といった規程の中での身体拘束をめぐる法的判断が確定したといえます。
この最高裁判決で、特筆するところは、まず、そもそも身体拘束は必要やむを得ないと認められる場合にのみ許される、という前提を踏まえた上で、身体拘束が例外的に許される①「切迫性」、②「非代替性」、③「一時性」を入院していた高齢女性の実情から判断し、かつ、当該病院に入院する前の病院でも転倒し骨折していること、また、身体拘束があった日の10日程前にも転倒があったことなどをあげています。
特別養護老人ホームをめぐる裁判事例でも、誤嚥による度重なる急変に対しての対処の甘さから厳しい判断を下したもの(東京地裁平成19年5月28日判決)や、グループホームでの度重なる転倒転落による事故に対して、十分な措置を講じなかった点に大きなペナルティーを課したもの(大阪地裁平成19年11月7日判決)があります。
施設に入所している高齢者は、認知症や寝たきりのため、ほとんどの高齢者に何かがあった場合、大きな負傷につながることが事前に予想されることから、事故があった場合の次への対処方法や方策の取り方が争点になってきます。
今回のご質問や、最高裁が下した身体拘束についてのとらえ方についても、身体拘束が許されるための条件を正確に見極め、「適切な拘束」をする状況も今後、必然的に発生するものと思われます。その「適切な拘束」をするための見極めと解除のタイミング、そして同じ事故を何度も起こさないための取組みが大切ですね。
「どんな犬でも、一度は咬む」 アメリカの「ことわざ」です。
一度目は大目に見てくれますが、二度目は許されない、という意味だそうです。
確認ですが、身体拘束が認められる条件は、「切迫性」「非代替性」「一時性」を、“複数で確認した”場合に限る、ということですのでね。