2026.05.06

Q. デイサービスに通われている男性利用者が、女性介護職員に対し好意を抱き、ストーカー的なつきまといの結果、思いが叶わないと感じた利用者が、好意を寄せる女性介護職員に脅迫行為と暴行にまでおよび、職員自身が恐怖で出勤できない状況にまでおかれています。職員を守るため、またこのままでは職員からの退職が予想されるなか、利用者へサービス提供の拒否を申し入れようと考えています。

A. 施設長としてもここまでのケースは前代未聞のことだったと思われますし、当事者である女性職員の恐怖と不安は計り知れないものがあったことと思います。

このようなケースは、息の長い取り組みが必要になり、完全に解決し安心するまでには時間がかかる、ということを管理者の方は覚悟しておいてください。

特養をはじめとした介護事業所を取り巻くリスクは、いま、大きく分けて4つあります。

①大規模災害時の対応リスク

②高齢者の層が激変するというリスク

③日々発生する介護事故のリスク、最後に

④労務管理を含めた人材のリスクです。今回、ご相談のあったストーカー、脅迫・暴行のようなケースは、②高齢者層の変化に伴うリスク、③介護事故リスク、④労務管理のリスクに広く該当するものです。

高齢者層の激変リスクについては、現在、我が国の人口割合でいうと79歳の方が最も多く、次いで78歳、77歳と続きます。「2025年問題」といわれる由縁も、この年齢層の高齢者が75歳以上の後期高齢者に突入することに関係がありましたし、さらに60歳以上のシニアを含めた人口層でいえば、今後人口の約半分近くを占めることになりますから、比較的若い層の高齢者が、今後、皆さんの介護サービスを利用することについてのリスク、ととらえて頂ければ結構です。

介護事故リスクとの関係でも、従来は、介護職員が介助中に利用者を転倒させてしまうであるだとか、うっかり目を離したすきに誤嚥させてしまうであるだとか、職員が利用者に不利益を与えてしまうケースが主でしたが、認知症の利用者が認知症の利用者に危害を加えてしまったようなケースもあり、そしてこれからは、ご相談にもあるような、利用者が職員に危害を加えるケースも頻発すると考えられます。

では今回のケースで、問題のある利用者に対し、サービス提供の拒否まで踏みきれるか考えてみましょう。

介護保険法で規定される事業所が、利用者へのサービス提供を拒否できる例外的なケースとは、

事業所の利用者定員や職員数の関係から利用申込みに応じられない場合や、

利用者の所在地に対して、事業所の実施エリア範囲外な場合、

そしてその他として、適切な介護サービスを提供することが困難な場合、

とされています。基本的には正当な理由なく、とくに所得の多寡や利用者の所在地などを理由に、サービス提供の拒否をすることはできません。

相談のケースの場合、サービス提供の拒否ができる例外規定として、「その他、適切な介護サービスを提供することが困難な場合」に該当するか否かです。介護事業所において、暴言や脅迫まがいの行為、暴行などについては、ごく一部の利用者や家族にそうした例もありましたし、被害を受けるのも多くは男性職員であったように思います。ですが、今回のようなストーカー行為がエスカレートした暴行事件については、過去にあまり例を見ず、行政解釈も含めて統一的な見解は存在しません。

同様のことは病院においても、医師法第19条1項「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な理由がなければこれを拒んではならない」という規定が存在します。いわゆる応招義務といわれるものです。この場合でも、過去の裁判事例では医師が国に対して負う義務であって、患者に対して直接負う義務ではない、と規定されています。つまり、患者が医療機関や医師に対して、診療請求権を有しているわけではなく、それに反しても罰則はありません。介護現場においても、同様の解釈がなされています。

そうはいっても医療や介護の領域は、一般の商取引をめぐる契約とは異なり、生命や日常生活を直接的に支えるものでありますから、診療拒否や介護サービス提供拒否は極めて例外であると考えた方がいいでしょう。

ですが、今回のご相談のようなケースの場合、とくに介護現場で発生したことの難しさと意味を整理しておく必要があると思われます。難しさとは、認知症状のある方をサービスの対象としている点です。認知症を患う高齢者の場合、刑事的(民事も)な責任能力を問える相手ではないことから、これまでも女性職員が、男性利用者から身体を触られたり、また罵声を浴びせられるようなシーンは多々あり、職員個人の気持ちの切り替えで何とか整理し乗り切ってきたのではなかったでしょうか。また、認知症状によって判断能力がなくなり、これまでとは質の異なる問題行動が発生したとしても、そのことへの対応が、仕事としての対人援助業務の範囲内にあるのではないか、という側面も争点となります。 しかし、今回の相談内容では、利用者に認知症や精神疾患的な妄想があるのかまでは定かではありませんが、ストーカー的行動や脅迫・暴行にまで及んでいる以上、法人や施設としては使用者責任と職員の安全配慮義務の履行という視点から、しかるべき対応をとる事態におかれていると思います。

具体的には、警察に被害届を出させるよう、被害に遭った職員を促します。暴行にまで到っているということですので、医療機関へも同時に受診させ診断書を作成しておく必要があります。一方、法人としても、使用者責任として職員の安全を確保する必要がありますので、警察への被害届を出す必要があります。どのような被害かというと、そのトラブルのために職員が出勤できず、人員の補充やサービス提供のために必要となる人員基準を満たせない場合も考えられるわけです。また、ストーカー行為に及んでいる利用者からすると、目当ての職員が休んで出勤していないことから、デイサービスにまで訪れ、他の職員に居場所を尋ねたり、さらなる脅迫が繰り返される可能性も大きいことから、他の職員の安 全確保のためにも必要であるということです。警察機関としては、一般的なストーカー対応として、転居する、職場を変わる等のアドバイスを行うはずです。そうした場合、被害に遭った職員は大きく人生設計が狂わされるだけではなく、法人としても貴重な人材を失うリスクがあるわけです。

よく似た事例に、利用者の家族がほぼ毎日面会に訪れ、その家族が職員の介助行為について難くせをつけ、職員を罵声し続けた結果、職員の方が精神的に追い詰められ勤務できず退職届を提出するにまで到った相談もありました。イメージとしては、母親が入所し、その息子や娘が毎日面会に訪れ、ほぼ一日中職員の介助を監視しているような場面設定です。このようなケースでは、法人側としてその家族に対し、刑法上の業務妨害罪にあたることを説明する必要があります。職員の業務としての活動が、第三者からの難くせや暴言によって妨げられ、そのために業務に支障が生じた事実がその理由です。場合によっては、利用者に退所して頂くか、または面会に来る家族への面会時間や回数、面接する場を制限す ることも可能です。

ただ今回の質問に対する回答についても、被害を受けたという事実を裏づける記録や、他の職員たちからの証言、つまり第三者による援護も必要になってきます。

ストーカー行為等を含めた今回のような相談は、高齢者施設であっても今後、確実に起こることが想像されますし、また、職員の誰もがそのリスクにさらされているということを理解しておいてください。