2026.05.06
Q. 昨年、大型台風の影響で、施設周辺に特別警報が発令されました。当施設は、福祉避難所の指定を受けていたものですから、地域の方が大量に避難して来られ、また特別警報が出された直後から、避難するために自宅を出ることすら困難な状況におかれている地域の要介護者への対応を協議している最中、山間部に位置する施設の裏山が崩れ、大量の土砂が施設内に流れ込むなど、大雨と土砂災害の怖さが分かったような気がしました。再度、防災について職員全員と考え直したいのですが、何かアドバイスを頂けると幸いです。
A. 今年の夏も酷暑が予想されていますので、全国各地で水害と土砂災害に見舞われる可能性が高そうです。
これまでの大規模災害に対する記事でも、津波リスクに対する内容が主でした。しかし、夏本番となるこれからの時期に多くなってくるのが、梅雨のゲリラ豪雨を含めた大雨と、大雨に伴う土砂災害でしょう。とくに山間部では、土砂災害に細心の注意を払う必要があります。土砂災害にいたる直接的な要因は、大雨だけではなく、地震そして火山噴火などによって引き起こされることも覚えておいて下さい。
津波による直接的な被害を受けない、という意味では、海岸線に接していない自治体は、内陸県といわれ、具体的には埼玉、栃木、群馬、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良の8県となります。
そして、奈良県を除いて7つの県はすべて隣接しており、マグニチュード8級クラスといわれている南海トラフ巨大地震が発生した場合、内陸県であることから大津波による直接的な害を被る可能性は低いものの、津波によって被災した圏域からの利用者の受入れを期待される県としての責任と役割が大きくなってきます。
つまり、大災害時における自施設の役割を、被災圏からの「受入れ施設」として機能させることが求められるということです。これは、何も海に接していない内陸県独自の災害リスクというだけではなく、同じ県内でも、沿岸部と山間部があるエリアであれば、同じように利用者や職員の受け入れを期待される施設となることを意味します。
「-防災について、職員全員と考え直したい…」という事でしたら、土砂災害に見舞われる可能性の高い施設である、というだけではなく、自施設での災害対応力向上という視点から、皆さんには考えて頂きたいと思っています。
つまり、「リスクの正確な把握」です。具体的な話し合いのテーマとしては、①市町村が発行しているハザードマップや、国土交通省が管理しているハザードマップポータルサイト等をみて、自施設がどのような立地条件・環境におかれているかを確認し話し合ってください。例えば、河川等の氾濫や水害、土砂災害、液状化、豪雨、暴風などの項目からです。②施設周辺の避難場所(一時避難所)や避難所(二次避難所)の場所、そこへの経路、手段についても話し合ってください。③施設が立地する土地の由来や歴史について、地域の方にも協力いただき知っておいてください。
つまり、「リスクの正確な把握」については、皆さんもよく目にするような、「防災チェックシート」の項目にチェックしている程度では、リスクの正確な把握、とくに「十分な把握」とはいえないことを意味しています。では、大規模災害時における「リスクの正確な把握」について、私から質問をさせて頂きます。「みなさんの施設において、最悪の場面とは何をイメージしますか?」 一つ例をあげると、北海道の社会福祉施設では、「二月に電気が不通となること」がほとんどの施設において最悪の事態であり、利用者だけではなく職員にとっても死を近くに感じる事態、と語っていました。
皆さんの施設は、どのような立地・環境にあるのでしょうか? 山間部であれば、大雨による土砂災害があげられるでしょうし、川沿いであればゲリラ豪雨などでの河川の氾濫や堤防の決壊などの浸水があげられます。市街地であっても、地震や火災の際には道路の大渋滞が予想されますから、車での移動や避難は不可能となりますし、埋め立てた場所に施設が立地しているような場合には、地面の液状化で建物が傾くことも考えられます。
ハザードマップ等を利用して、自施設における「地理的リスクの把握」からはじめる必要があります。職員によっては、遠くから通っている者もいるため、施設周辺の土地について、昔から知っているわけではない可能性もあります。施設が立地する土地にまつわることや、避難場所までの経路など、どこを通っていくのがもっとも安全なのか、地域の方の意見も交えながら確認することは重要な視点です。
皆さんもご存知だと思いますが、小学校で甚大な被害が出た「大川小学校事故検証報告書(宮城県石巻市)」でも、あのときの大災害によって、事故発生時11名の教員のうち10名が亡くなりました。そしてその7割の教員が大川小学校での勤続年数が2年未満と短かったことが分かっています。つまり、その土地のことを知らない職員による、施設外への避難の場合、より地域のことを知っている者による知恵が必要であるとも言えるわけです。
地震による大津波と、大雨による土砂災害。防災という視点から、この二つには大きな違いがあります。地震は予測することができませんが、大雨は気象情報によって勢力や上陸日時、進路等ある程度の予測をすることができる点です。つまり、身近な危機に対し「備える」ことができるという点です。
私からの質問であった、「みなさんの施設において、最悪の場面とは何をイメージしますか?」に対する話し合いの中から、皆さんの施設独自の防災マニュアルや、防災ハンドブックなるものを作成していただきたいのですが、これらは模範解答的な、答えを求めるようなスタイルではなく、それぞれの施設における立地条件や設立年の違い、職員構成や利用者の年齢・障害の程度等が異なりますので、皆さんの施設にとって、もっとも困難であると思われる災害と時間、条件等の場面設定を行い、施設独自の防災マニュアルを作るための「気づき」と「課題」を発見するためのものと認識してください。
施設としてのマニュアルの完成度が高くても、実際に起きるであろう大規模災害時に役立たなければ、まったく意味のないものになってしまいます。
繰り返すようですが、防災をめぐる職員全員との論議のなかでは、模範的解答やありきたりな答えではなく、皆さんの施設で、「何がどこまで準備できていて」、「何が不足しているのか」、「その不足を満たすには、何が必要で、どこに限界があるのか」を気づき、自施設では限界のあることを、他事業種や地域との連携のなかで補完し合えるのはどこの部分であるのか、について、認識していただく機会ととらえて下さい。