2026.05.06
Q. 大規模な浸水時、「1階から2階にどうやって利用者を移動させるのか?」。とくにこれまでの梅雨の豪雨や台風が、偶然にも土日で、併設しているデイサービスがお休みの日だったものですから助かったものの、これが平日であれば、と思うとゾッとします。
A. これまでの梅雨の豪雨や大型の台風が、立て続けに週末に上陸したため、デイサービスなどではさほど被害は大きくなかったのかもしれません。しかし、入所系である老人ホームでは土日祝日といった発想は関係なく、苦労されたと思います。
つまり、「夜勤帯の災害」というのが、想定している災害リスクのなかでも最高ランクに位置づけられるものですから。
その理由としては、職員の数が圧倒的に少ない時間帯であることや、特別警報を伴うような豪雨災害の場合には、落雷等で停電が考えられますので、夜勤帯に、それも人手が少なく、電気が使えないことからエレベーターも使用できずに暗闇のなかでの介護となるからです。
そして1階フロア部分の浸水となれば、当然のことながら避難するのに時間を要する子どもや障がい児・者、そして高齢者といった避難弱者に対して避難を呼びかける避難準備情報が災害対策基本法に則って自治体から発令され、避難勧告や避難指示等の順でアナウンスされているタイミングと考えられます。高齢者施設の場合には、そのハード面から頑丈な建造物であるため、放射能災害や近隣での大火の場合を除いては、どこかに避難するというよりは、むしろ留まるという籠城型の方が望ましい、と予てからお伝えしてきました。
ですが、備えることはできます。最近ではとくに、特別警報を伴うような豪雨や土砂災害といった水害や浸水被害が特徴的ですが、地震や噴火など予知できない災害とは異なり、気象庁による発表を、テレビ(ワンセグ)や携帯ラジオ、そしてカーナビ搭載車であればテレビによって事前に情報を収集し、予測を立てることが可能なため、予測できる、つまり被災するまでの時間や規模・程度の予見が可能ということになります。
これからの防災対策についてのアドバイス、という意味では、「避難」をキーワードとして、台風や豪雨による土砂災害等の水害に際し、いかに予測し、避難すべきなのか、留まるべきなのか、を判断しなければならないという点につきます。
以前にも連載で紹介しました東日本大震災時の津波事故で亡くなった保育所と幼稚園の事例から、被災までの時間やその程度など、予見可能性を図るうえでの災害情報の入手について説明したいと思います。
つまり、気象庁から発表された災害情報を、テレビやラジオ、そして防災行政無線等でどう災害情報を入手したのか、また入手できたにもかかわらず、そうしなかったのかについてです。
宮城県山元町立保育所のケースでは、現状待機という災害対策本部からの指示で、発災から1時間15分の間、園庭で待機していた園児のところまで津波が来襲し、園児3名が亡くなった事例です。津波による被災時刻までにどのような災害情報が発信されており、どのような方法で情報を受信していたのか、という点に絞り整理すると、次のようになります。
町立保育所内では、防災無線やサイレンの設備が損壊し、ラジオやテレビも停電により視聴不能となり、また町役場福祉課に携帯電話をかけるもののつながらない状況のなか、避難指示を得るべく、保育士が車にて災害際策本部に駆けつけ「保育所です。避難指示を下さい」という質問をし、「現状待機」という指示を災害対策本部から受けたのが午後3時25分から午後3時30分までの間でした。ちょうどその頃には、気象庁により大津波警報の予報区が拡大された第三大津波警報が発令された時刻と重なり、発災直後の午後2時49分からNHKテレビでも岩手県・宮城県・福島県の沿岸部の様子をヘリからの中継で放送し続けていたわけです。裁判所も、避難指示を行うという選択をする場合、災害対策本部が町立保育所に津 波が到達するであろうことを予測できたかという観点から、気象庁やNHKテレビといった災害報道の発信状況を、地震発生直後の午後2時46分から午後3時10分頃までと、午後3時10分頃から午後3時30分頃までの時間帯に分けた整理を行い、津波の襲来を町立保育所が受けるのかどうかの予見可能性を計っています。この災害情報の収集に関しては、結果として災害対策本部内に設置されたテレビ(ワンセグ)やラジオによる情報収集を行うことができず、災害対策基本法23条2第4項1号における情報収集の事務が適切に行われていたとはいえないと判断したケースでした。
次に、幼稚園の事例では、園児を乗せた送迎用のバスを海岸線沿いに向かって走らせた結果、津波に巻き込まれ5名の園児が亡くなった事例です。ここでも、避難の際に予見可能性を図るうえで必要となる災害情報の入手という点に絞って整理すると、午後3時02分過ぎ、「園児らをバスで帰せ」という園長からの指示がでた時点では、気象庁による大津波警報が防災行政無線、NHKラジオ、石巻コミュニティラジオ、東北放送ラジオ等でも宮城県沿岸部での津波高や津波到達時刻を発表していました。たとえば、NHK仙台放送局は、午後2時51分~午後3時08分までの間に、宮城、岩手、福島沿岸に大津波警報の発表を9回、宮城県への津波到達予想時刻が午後3時、予想される津波の高さは6mであることを12回伝えています。
災害情報を入手・確認できないままでいたことから、午後3時10分被災した小さいバスの運転手は、「まだ自宅でバスの送迎を待っている保護者がいるかも知れない」と思い、海岸線沿いである正規の送迎ルートの停留所付近まで向かいましたが保護者と出会うことができず幼稚園に戻っている最中、渋滞により停車していたところ津波に巻き込まれた事例でした。このケースでは、災害情報の入手に関するミスだけではなく、学校保健安全法第29条1項により作成が義務づけられている幼稚園地震マニュアルでも、大地震発生時には高台にある幼稚園において園児を保護者に引き渡すよう定められていたことなどを、職員らに何ら周知していなかった点も批判されました。
これらの事例から、被災という危険を予見することが、災害情報等の入手によって可能であることが分かりました。ですが、津波や土砂災害等の浸水については、到達時刻や被災の規模などがある程度、予測できるとはいえ、広島市の土石流災害でも、発災前から落雷による停電で入手できる情報に限りがあったこと、また携帯電話のワンセグテレビや携帯ラジオであっても、平時から電波の受信状況が悪い山間地などでは情報が入手しにくく、予見できるだろう災害情報へのアクセスにも困難を極める場合が考えられます。さらに、災害情報を入手でき避難の必要性がある、と判断した場合であったとしても、相談にもあったように深夜でありまた特別警報を伴うような豪雨であった場合などでは、避難そのものが 非常にリスクの高い行為だと言えます。
繰り返すようですが、地震や噴火を除いての自然災害、つまり津波や豪雨による浸水被害、土砂災害等は予見可能性を計ることのできる災害と考えられます。この予測できる災害に対して、情報をどう収集しその情報をもって避難する場合のリスクと、避難しない場合のリスクとを整理し、その後にどういった行動を採るのか、これらの「備え」が今後の私たちにとって考えるべき「備え」です。