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- 度重なる急変時に過失が認められた事例
■東京地裁 平成19年5月28日判決 一部認容一部棄却 確定■ <特養>
[事件の概要]
特別養護老人ホームにおける入所者の誤嚥事故につき、利用者に度重なる急変があったにもかかわらずしかるべき対応を取らなかった介護職員に過失があるとして、老人ホーム開設者の使用者責任が肯定された事例。
[争点]
法人の利用者に対する誤嚥監視義務等の違反の有無。度重なる急変をめぐって
[結論]
出前の玉子丼に入っていた鳴門巻のかまぼこが喉に詰まり、口から泡を出していた利用者に吸引の措置をした一回目の急変、その後再び利用者が口から泡を出して苦しそうな呼吸をし、チアノーゼが見られた二回目の急変、その後介護職員らが車いすに乗った利用者を食堂から寮母室の前に運んで経過を見ていた際に、利用者が顔面蒼白でぐったりとしている状況を発見した三回目の急変。これら度重なる急変に対して、医療の専門家である嘱託医に連絡して適切な処置を施したり、119番通報をして救急車の出動を直ちに要請すべき義務を怠った。- 度重なる転落事故をめぐっての過失責任 ヒヤリ・ハッとがかなめに!
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■大阪地裁 平成19年11月7日判決 一部認容一部棄却 確定■ <グループホーム>
[事件の概要]
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に入居中の高齢者が、自室のベッドから転落し受傷した事故につき、施設経営者に安全配慮義務違反があるとして損害賠償責任が認容された事例。
[争点]
ベッドからの転落事故についての債務不履行責任と安全配慮義務違反の有無。
度重なる転落についての過失責任
[結論]
平成15年11月20日にベッドから転落、一週間後の27日にも転落、12月4日にもベッドから落ちそうになっていたのを職員が発見し、ベッドサイドに椅子を置き対応。12月23日ベッドにすれすれに寝ていたのを職員が気づいて移動、平成16年1月30日にベッドから転落、左大腿部頚部骨折により入院したことを考え合わせるとベッドからの転落事故が多発しているにもかかわらず、転落防止に十分な措置を取らなかったことに、本契約上負っている安全配慮義務につき債務不履行責任が生ずる。 - 緊急時対応契約について
■大阪高裁 平成20年7月9日判決 控訴棄却 確定■ <高優賃>
[事件の概要]
高齢者優良賃貸住宅の入居者の死亡の発見が担当者の鍵の管理ミスにより遅れたことについて、緊急時対応サービス等の利用に関する契約上の債務不履行があったとして、死亡者の相続人の慰謝料請求が認められた事例。
[争点]
・緊急時対応契約に違反しているか否か。
[結論]
正しい鍵を保管していなかった過失により、常時安全安心な生活をさせる債務及び緊急時に最善の方法で対応すべき債務について、原告側に債務不履行が認められる。さらに、緊急時対応契約に基づく義務は、入居者の緊急事態を感知して以降安全確認ないし救助または関係機関への通報等が終了するまでは、入居者がその前に死亡したとしても終了せず、相続人との間で継続している。そして安全安心な生活に対する期待を裏切ったもの(期待権の侵害)と解することができる。- 説明責任の程度と内容
■横浜地裁 平成17年3月22日判決 一部認容・一部棄却 確定■ <デイ>
[事件の概要]
介護老人福祉施設でデイサービス(通所介護)を受けていた85歳の女性(要介護状態区分2)が、同施設内のトイレで転倒受傷した事故についてのリスクマネジメント。 デイサービスを利用していた女性が、午後3時頃送迎のバスを待って、ソファーで 座っていたところ、念のためトイレを済まそうと前方にあった障碍者用トイレに向かい、介護職員は障碍者用トイレの入り口までは歩行介助するも、「自分一人で大丈夫だから。」、「ここからはいいから。」と二度強く拒絶されたため、介護職員は持ち場に戻った。職員は、利用者がトイレから出られたら歩行介助をしようと考えた。その後、女性利用者が障碍者用トイレ内で転倒。右大腿骨頚部内側骨折と診断。
[争点]
介護者は、利用者から強く拒絶されたとしても、同行した障害者用トイレまで介助する義務の有無。
法人側に求められる説明責任の程度と安全配慮義務違反。
[結論]
利用者が本件トイレの入り口から便器まで杖を使って歩行する場合、転倒する危険があることは十分予測し得るところであり…、利用者が拒絶したからといって直ちに一人で歩かせるのではなく、説得して利用者を便器まで歩くのを助ける義務があった。介護拒絶の意思が示された場合であっても、介護の専門知識を有すべき介護義務者においては、「介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性とを専門的見地から意を尽くして繰り返し説明し、介護を受けるよう繰り返し説得すべきであり、それでもなお要介護者が真摯な介護拒絶の態度を示したというような場合でなければ、介護義務を免れることにはならない。」「介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性を説明しておらず、介護をうけるように説得もしていないのであるから、歩行介護義務を免れる理由はない。」
※ 法人側に7割の過失 「繰り返し十分な説明義務を怠った」- ヘルパーの報告義務と代表者の責任
■名古屋地裁一宮支部 平成20年9月24日判決 一部認容・一部棄却 確定■ <訪問介護>
[事件の概要]
歩行・起立・座位が不能な少年が訪問介護の食事介助を受けている時に食物を誤嚥し窒息死した事故につき、介助員に過失があるとして、介助員及び介護員が所属する事業所の損害賠償責任が認められた事例。(ただし、事業所の代表者の責任については請求を棄却)
[争点]
介助員(ヘルパー)の過失の有無。介護事業所代表者の故意又は重大な過失の有無
[結論]
少年がむせを生じない誤嚥であったことから、ヘルパー2級の介護員が医師はもちろん看護師と同程度の注意義務を認めることはできず、少年が誤嚥に陥っていることに直ちに気づくべきであったとまでは認めがたいが、…ヘルパーが異常事態の原因を自ら判断できなかったとしても、少なくとも看護師でいる会社代表者に対して連絡する程度の異常事態であったとの認識は持つべきであったと認められる。少年の異変に気づいた際に、事業所ないし看護師でもある事業所代表に連絡を取るべきであったにもかかわらず、これを怠ったという過失が認められる。事業会社においては、新人研修を行い、新人教育マニュアル及び「入社後3週間以内に完了する事項」と題する書面を配布し、研修を行っていること、新人教育マニュア ルにも報告・連絡・相談の重要性や事故処理方法について記載されており、事故処理方法としては「現場で何らかのミス・対応しきれない事態が起こった場合は、直ちに会社へ連絡し、指示を仰いで下さい。ヘルパーの判断で対応できた場合でも現場を離れる前に会社へ状況報告し、『離れてもよい』という指示が出るまで現場を離れないで下さい」などと記載されていること、…これらの研修等によってヘルパーの過失を防ぐことは十分に可能であると認められることから、ヘルパーの過失は看護師である代表者による体制整備の不備であるとは認めがたい。
※ ヘルパーの責任、事業所の責任は認めたものの、代表者個人への責任は認めなかった。