2026.05.06

Q. デイを利用されている時に、道を隔てた神社にお参りに行きたい、であるだとか、それほど遠くではないものの先祖のお墓に手をあわせに行きたい、であるだとか…。もちろん、その程度のことであれば、一緒に同行しお付き合いするんですが、「もし、ここで利用者さんが転倒でもしたら、いったい誰の責任になるんだろうか?」と、一緒にお付き合いする行為に戸惑うことがしばしばあります。

A. 利用者さんが望まれることを行い、無事に帰ってくることができれば、高齢者にとっては思いが満たされ、皆さんにとっても、利用者さんの笑顔や感謝の言葉を聞くだけで、何物にも代えられないほどのやりがいと誇りを感じることができるに違いありません。

しかし、その行為の途中で転倒などの事故が起きてしまったら、善意に近い気持ちから出た行為が、今度は責められる行為に変わってしまいます。

今回の相談に対し、直接的な、またノウハウ的な答えにはならないように思いますが、興味深い裁判事例が出ましたので、ここに紹介したいと思います。

家族による在宅介護を受けていた認知症の高齢者が、列車に衝突し鉄道会社に損害を与えたことにつき、子どもである長男に監督者に代わる監督義務違反があるとして、賠償責任が認められた事例です。認知症高齢者が列車や車と接触する事故年々増加してしますが、逆に、認知症であるにもかからわず自動車を運転し、子どもも含めて歩行者を轢き殺す、といった事件があとを絶ちません。

今後、認知症高齢者の急増によって、このような事故が多くなることが予想されます。

具体的には、当時91歳で認知症を患う男性が、線路内に立ち入り列車に撥ねられ死亡したわけですが、そのために発生した列車の遅れや代替列車の手配、人員補充等にかかる鉄道会社側の損害を、亡くなった男性の相続人である当時85歳の妻や長男、介護福祉士であり特養併設の高齢者施設で勤務する三女らに対し、遺産の相続分に応じた金額の支払いを求めたものでした。

未成年者が引き起こした事故の損害部分を、親権者である保護者が代わりに支払う事例は過去にもありましたが、認知症高齢者が引き起こした事故の損害賠償責任をその子らに負わせたケースは非常に珍しいものです。ですが、超高齢社会となるわが国のこれからにおいて、高齢者の子の監督義務責任が問われることを暗示する事例でもあります。

この事例で裁判所が長男である子の監督義務違反を認めた理由として、当時91歳の父親に認知症の症状が進行し徘徊等があったにもかかわらず(要介護度4)、長男をはじめとする家族会議では特養に入所させる手続きもとらなかったことや、近くに住む介護福祉士である三女に対しても頻繁な訪問を依頼せず、訪問介護等の介護保険制度も利用しなかったという、在宅介護に必要な措置を講じなかったことによる判断です。

とくに私たちにとって関心のある視点としては、介護福祉士の資格をもち、高齢者施設で勤務している三女が、認知症で徘徊癖のある要介護度4の父親に対し、家族間というプライベートな関係であるにせよ、どのようなアドバイスや提案を行ったのかという点でしょう。

介護福祉士資格を持つ三女の民法709条不法行為による損害賠償責任の有無に関して、「―介護に職業として携わっている者として、認知症患者が徘徊して行方不明となる事例が多いことを認識し、徘徊中に交通事故等の事故に遭った事例も何件か見聞きしていたこと、家族会議においても父親を特養に入所させるかが話題になった際、特養の問題点を指摘して在宅介護を勧めながら、自己が父親の介護により深く関与することも、民間のホームヘルパーを依頼するなどして父親を在宅で介護していく上で支障がないような具体的な改善策を助言することもなかったこと、また、(父親が外に出ないよう)事務所出入口の事務所センサーに電源が入れられていないことを認識していたにもかかわらず、電源を入れる等の 徘徊防止等を講じておくべきと助言することもなかったこと」などから、認知症になった父親が自宅から独りで外出・徘徊して第三者の権利を侵害することのないような介護体制を整えておくべき不法行為法上の注意義務を負っていた、と結論づけたものです。

判決のバックグラウンドとして、相続人である家族ら介護者は、不動産を除く5,000万円以上の預貯金を相続していることなどから、介護福祉士として近くに住む三女に、父親宅の訪問頻度を増やすよう依頼したり、介護保険の在宅サービスを利用するなどして在宅介護していく上で支障のない対策を具体的に講じなかった点や、父親が存命中、民間の介護施設や介護保険のサービスを十分に利用するだけの経済的余裕があったにもかかわらず、要介護度4の認知症である父親の監督義務を果たしていなかった、言い換えるならば、「相続するであろう分に見合った、十分な介護を行っていなかった」という結論に達したものと思われます。

今回紹介しました事例と、質問にある「法人の責任と、家族の責任」にひきつけて考えますと、いづれにせよ介護職に就く者としての専門性を示唆したものであったと思われます。

先ほどの事例の場合、民法714条「責任無能力者の監督義務者の責任」との関係で、多額な相続を受けているという点と、介護のプロという視点から、家族が果たすべき介護のあり方を説いたものでした。一方、この高齢者が介護保険施設や、皆さんが勤めている介護サービス事業所で、行方不明になり列車事故を起こしたような場合であれば、プロである職業人集団として、法人に対し安全配慮義務違反があったと判断されます。

デイやショート、グループホーム等で認知症の利用者を預かっているケースでの争点は、徘徊行為と事故につながった過去のヒヤリ・ハッとや、行方不明にならないようなハード面でのセキュリティー(赤外線センサーやオートロック式の扉)をどう設置機能させていたのか、そして徘徊行為に対してケアプランまたは個別支援計画上での具体的な実施するサービス内容がどうなっており、それに対応した業務が展開され、記録化されていたのか、が職業人として求められる視点となります。