2026.05.06

Q. 「『緊急地震速報』が伝えられ、その3秒後に震度5強クラスの地震が発生しました…。そのとき、高齢者施設では何がリスクであり、どう対処すべきなのか」。 午前中なりの太陽が昇っている時間帯に発生した場合に留意する点について教えてください。

A. まず、太陽が昇っている時間帯に遭遇するのか、または深夜の夜勤帯に遭遇するのかでは、業務の優先順位が異なります。

日勤等の時間帯と、夜勤帯のそれでは、職員の数が圧倒的に異なりますので。

質問にあった、昼間前後の太陽が昇っている間の大規模な地震という場面設定で開設を進めます。インフラのダメージは、「停電」と「断水」としましょう。

そうなりますと、優先順位的には「被害状況(館内・館外)の情報収集」ですが、その次に大事なのが、数量等を含めて確認しておかなければならないこととして、「食事の提供」に関わる視点です。

2026年のGW前にも、北海道周辺で震度5強程度の大きな地震があり、「後発地震注意報」が発令されたばかりです。早朝でした。その2時間後には長野県北部でも比較的大きな地震が発生しましたし、日本全国、至る所で揺れている、というのが現状です。

最近になってよく聞かれる千島海溝地震は、最も発生確率が高く想定されたもので、北海道根室沖から東北エリアを含むものです。そして、南海トラフ地震、首都直下型地震と続くわけです。

南海トラフとは、伊豆半島あたりから九州にかけての太平洋岸沿いに続いている海底が細長く窪んだ地形のことを指しており、これらはすべてフィリピン海プレートという断層上にあるものですから、東海地震、東南海地震、南海地震と、誘発型の三連動地震といって最大級の警戒が必要とされる地震の一つです。

内閣府の試算では、地震の大きさをM8.7からM9.1に修正し、何パターンもの大津波を想定した結果、海岸線沿いに静岡市、浜松市、豊橋市、高知市、尾鷲市、鳥羽市などでは20m以上の津波が予測されました。20mといえば、ビルの6階程の高さとなりますから、平地であれば基本的にはどこにいても助からない恐怖ということになります。

なぜ、この南海トラフの地震が恐怖かというと、首都圏、中部、関西を含むこのエリアは、臨海部の埋立てによって、広大な海抜ゼロm地帯に数百万もの人が住んでいる立地に地震と津波が襲うということを意味しているからです。さらにこの地震の場合、震源地が陸地に近いため、ほんの数分で巨大津波がくるという地形でもあります。

話を元に戻します。

まず、「地震直後の情報収集の仕方」については、現時点での対応にくわえ、その地域やエリアだけではなく、社会全体がいまどうなっているのかの正確な情報が、次に起こるリスクとその対応を規定するといっても過言ではありません。ですから、テレビやラジオからの情報が最も効果的であると考えられます。

ですが、地震や余震の場合、電気が不通となるリスクが最も高いことから、コンセントにつなぐラジオではなく、電池式のラジオで外部の情報を手に入れるしかありません。また、津波等の心配がないエリアであれば、職員や法人の持つ車のエンジンをかけたまま、ドアや窓をすべて開け、カーラジオによる情報を大音量で流し、すべてのスタッフが共有できるようにしなければなりません。このとき、東日本大震災時でもそうでしたが、数日後にはガソリンの不足によるパニックも想定されますが、エンジンをかけたままにしておかないと、バッテリーがあがってしまうことも知っておく必要があります。

ですから、乾電池式のラジオが施設内にいくつ常備され、また乾電池もそれぞれのサイズが異なりますから、備蓄する際に用途と種類を再度確認しておく必要があるでしょう。車も、カーラジオによる情報の入手という利点だけではなく、タバコを吸うためのシガーソケットから電気を引くことも可能です。

東日本大震災時の調査でも、宮城県のある被災施設の職員は、外からの情報が入ってくる数日間、「この地域でこんな被害なのだから、きっと日本全土が同じような被害に襲われ、すべてが壊滅している…」と思ったそうです。今後の首都直下型地震、また三連動地震などでは、主要都市部が壊滅状態になりますから、正確な情報を得られなければ、津波や地震というリスクだけではなく、混乱からくる暴動というリスクも考えておかなければなりません。

次に「食事提供の方法」についてです。

大災害等の有事の際においては、平時の3食から2食程度になることが予想されますので、要介護者へのカロリー摂取等が気になるところではありますが、それよりもまず、地震や余震の影響によって、調理に必要な電気、水道、ガスといったインフラの崩壊によって、「調理ができない」ことが最大のリスクとなってきます。食事を外注している場合であっても、道路の切断やガソリン不足等によって食材そのものの提供が断たれることを想定してください。

そうなると、今の備蓄食の中での対応となりますが、その内容や数量が問題になってきます。「内容」については、乾パンのような備蓄食が一般的ではありますが、水分も不足している状態で要介護者への乾パンは、誤嚥等のリスクがあります。保存期間が若干短くはなるものの、レトルト系食材の備蓄が必要となります。基本的に調理ができない状態での、必要最低限の栄養摂取と考えてください。これまで食事摂取が難しい方向けへの高濃度栄養剤の備蓄があれば、最悪の状態を考えた場合であっても、どなたに対しても提供できるものとなります。また食事の提供にも関係するのですが、水の確保や備蓄については、飲料水の場合おおむね3日~5日分と考えるようにしてください。自衛隊や自治体による水の提供や、援助物資の到着期間との関係から妥当といえます。阪神淡路や新潟中越、また今回の東日本における被災地をみても、被災から一定期間を経ると、ペットボトルの水と紙オムツが大量に余る状況が多くの施設でみられましたから。

次に、備蓄食の「数量」です。「何食分また何日分の備蓄食があれば…?」という質問をよく受けるのですが、まず数で考えると、たとえば特別養護老人ホームで80床とショート20床、そしてデイサービス40定員と仮定します。利用者だけで140名に、職員を入れるとゆうに200名を超える人数です。それに地域で暮らす要介護者が避難してきた場合を考えると…。仮に1食あたりの食事提供が200食で1日2食とした場合でも1日に400食分を準備しなければならないわけです。

これが3日続くと、1200食分の食事の準備を、調理ができない環境の中で提供しなければならないわけです。ということは、食材の備蓄だけではなく、食事提供時に当然必要となる紙皿や紙コップ、割り箸といった使い捨ての食器が相当数必要となりますし、ラップ等も今ある皿や器に巻いておけば、ラップを捨てるだけで洗わずに食器を使うことも可能です。では、皆さんの施設では、何mのラップが何本必要なんでしょうか。

また、2階以上の建物である施設の場合、エレベーターが使えないことから、食事の安全な運搬もリスクになってくると思われます。