2026.05.06
Q. 介護のスタッフは他の産業と比較をしても圧倒的に女性の職員が多い環境にあります。また職種的にも直接的な身体接触が主である介助業務ですので、セクハラに関する相談が絶えません。
A. 介護の現場ではどうしても「性の問題」を避けて通ることができないと予てから思っていました。
質問の「セクハラの相談」ですが、相談の内容としては二つ考えられます。ひとつは、利用者から介護スタッフがセクハラを受けた場合。もう一つは、職員同士でのセクハラの問題です。
いずれにせよ、過去のセクハラ問題についての対応が、法人や施設として適切であったかどうかも気になるところではありますが、これからの対策についてはコンプライアンス上の問題を含めた対応をしていかなければなりません。
カスハラについては、2026年10月から施行されることになりましたので、カスハラについては次の記事にさせてください。
ここでは、セクハラについて説明します。
当研究の顧問先でも、利用者からのいわゆるカスハラの相談よりも、職員同士のセクハラやパワハラといったハラスメントの相談の方が、圧倒的に数は多いです。
まず、セクハラに関する法的な考え方については、男女雇用機会均等法の11条を参考にして下さい。
「第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
この条文からセクハラの構成要件を整理すると、「性的な言動がある」、「労働者が労働条件により不利益を受けている」、「職場として適切に対処するための体制整備」のキーワードがあげられます。
「性的な言動」とは、直接的な性表現を口に出すだとか、身体接触だけではなく、「女らしさ・男らしさ」をことさら強調したり、性別役割分担を押し付けたりすることも含まれます。
「労働者が労働条件により不利益を受けている」とは、地位利用型ともいわれるもので、自分より役職の高い人から性的被害を受けた場合、セクハラを受けた者の対応がきっかけとなって、一般的には女性職員当人が解雇、配置転換、転勤、出向を命じられたり、降格、昇給停止、賃金や賞与の査定が低くなるような場合を意味します。
「職場として適切に対処するための体制整備」とは、労働時間中の職場内という意味だけではなく、勤務時間外での残業時や、新年会・忘年会等の懇親会も当然のことながら含まれますし、体制整備の点では事業主のセクハラ対応について、配慮義務から措置義務に強化されています。
つまり、形式的なマニュアルや単なる相談窓口の設置だけではなく、実質的な対応の中身が組織的に行われているかが問われることになります。ですから、法人としての責任という点では、就業規則にセクハラ禁止条項と相談窓口の設置を盛り込むことに加え、事前に対策委員のメンバーなどを決めておくことが望ましいと考えられます。
一般的にセクハラ相談の場合、被害にあったと思われる職員と加害行為をしたと思われる職員との両方から事情を徴収し、事実関係を確認するには非常に時間を要する作業となります。そして長い時間をかけながらも、セクハラのトラブルというものは両者の意見がかなりの食い違いをみせることから、事実関係そのものの確定が非常に難しいのも特徴です。
このように解決までの過程が長期化すると、セクハラを受けた一般的には女性スタッフにとって、かなりの時間、放置された状態になるものですから、職場環境がそのままであるがゆえに鬱症状等を訴えるようなことも考えられ、さらに問題が深刻化するわけです。
そうならないようにするためにも、セクハラを受けたと被害を申し出た職員の配置換えを行い、互いに顔を合わせないようにするなどの配慮を、法人としてとる必要があります。その時、セクハラの被害によって出社することが不可能であると連絡してくる可能性も十分にあるわけですから、施設としての人員配置を頭の中で描きながら、期限を定めた自宅待機、有給休職の選択肢も考えなくてはなりません。「セクハラによって出社できなくなった」と、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や鬱症状の診断書を、いまはいとも簡単に職場に提出する時代でもあるということを踏まえた方がいいでしょう。
どちらにせよ、セクハラ等の相談や申し出があった以上、可能であれば第三者も同席した調査委員会の設置と開催、期限を定めた事情徴収と、事情徴収による結果を当事者それぞれに伝えなければなりません。調査を怠ると、苦情処理義務違反ということで、法人の責任が追求されますので。
ただ、このセクハラに関しては介護現場のみならず、一般の労働市場においても対応は極めて難しいといえます。つまり、受け手側によって、同じ言葉や行為であってもセクハラになる場合とそうはならない場合とがあるということです。例えば男性利用者から卑猥な言葉や、身体を触れるようなケースは多々あることです。セクハラ行為を行った利用者は、概ね認知症であったり、判断能力という点でも低下もしくは減退しているわけですから、対応の仕方としてはうまく言い聞かせるなり、やり過ごすしかありません。被害を受けた介護スタッフが、その度毎にいちいち管理者に相談するようなものなら、「この人は臨機応変に対応できない、仕事のできない人…」というレッテルを張られるでしょう。また、職員同士の場合であったとしても、軽いボディタッチが日頃のコミュニケーションの延長と互いが認識する場合と、それが一方しか認識していない場合とでは、同じ行動であったとしても結果が違ってくることになります。
さらに特別養護老人ホームのような高齢者施設においては、とくに少ない人員で切り盛りする夜勤などを想定すると、異性同士の若い介護職員だけで現場を回し、その場に業務を管理する者もいないという時間や空間が多く生まれることになります。かつ、介助といった互いに協力が必要となる業務をこなすわけですから、セクハラとは次元が異なりますが、職員同士で恋愛関係になることも想像できます。
職場内での職員間の恋愛が比較的大目に見られて許されているところほど、セクハラの相談は多いものです。セクハラ問題がほとんど聞かれない職場環境では、そうならないための対策がすでにあり、またそうした場合にも適切な処分がはっきりと明記されているわけです。
介護現場では、女性の割合が非常に高く、そして男女とも若いケアスタッフによって高齢者の生活が支えられているのが実情です。ですから、職場内でのセクハラ騒動やまた恋愛騒動は、仕事をするうえでのモチベーションを著しく低下させ、噂話をうみ、ひいては個人的事情により職場内での人間関係が崩壊していくものです。