2026.05.06
Q. 苦情等のリスクについて、相談員や事務レベルの者にとっては、利用者や家族からのクレームの窓口になるため、ここ数年でクレームの内容が以前と比べ、ずいぶん違ってきていることを痛感しています。しかし、現場の介護スタッフにとっては日々の業務をこなすのに精一杯で、今後のリスク等を研修等で話をしても、まるで他人事のような反応が多く、困っています。いま何が一番の問題なのか、教えてください。
A. 高齢者施設や事業所にとって、これからのリスクという意味では、認知症高齢者の急増という視点もありますが、一番は高齢者像が大きく変わる、という発想です。
質問の中にもありましたが、「-介護スタッフにとっては、日々の業務をこなすのに精一杯で…」という表現を文字通りにとらえるなら、過去の成功・失敗体験や、過去の対応の仕方でベースにした「日々の業務をこなす」程度であれば、これからのリスクには対応できないと思っていてください。
つまり、これからの高齢者ケア、なかでも認知症を患う高齢者のケアについては、これまでと同じような対応の仕方に限界が生じてくると思ってください。
限界の大きな理由としては、高齢者像の変化があげられます。いま、皆さんがケアをされている高齢者は、おそらく90~100歳程度までの戦争を経験した方だと思われます。この年齢層の方であれば、たとえ認知症であったとしても、恥じらいや、物事の筋論、そして誰かの世話になることを嫌う文化的土壌のある高齢者が多いことでしょう。
しかし、これから認知症になるであろう高齢者は、これまでの高齢者とは「質」が異なってくるものと思われます。「質が良い、悪い」という意味ではなく、環境や生まれ育った時代、そしていまの置かれている立場という意味での違いです。
現在、日本人では、1947年~1949年の間に生まれた77~79歳の方が高齢者の中では最も多く、一般的には団塊の世代といいます。
このような高齢者は、かなりの資産を有する者でもあります。
総務省の調査によると、世帯主が高齢者である世帯の貯蓄現在高は、平均2,500万円といわれています。それに不動産を含めると数千万単位の資産を持っていることになります。
(話はズレますが、団塊世代の子どもたちである団塊ジュニア世代<1971~1975年生まれの>である50代前半世代は、景気後退や不安定な今の経済・世界情勢であったとしても、その親である団塊世代から遺産を分け与えてもらえる最後の世代とも考えられる)
つまり、一言でいえばこれまで「保護の対象」であった高齢者が、「消費者としての対象」に移り変わるということです。
当然のことながら、文化的背景や価値観そのものが、これまでの高齢者とこれからの高齢者とでは全く異なることを意味しています。
なので、冒頭にも触れましたが、認知症を患った高齢者のみならず、すべての高齢者ケアに対し、「-これまでと同じような対応の仕方に限界が生じている…」ことの意味が分かって頂けたかと思います。
では、「-これまでと同じような介護サービスの提供…」とは、どのようなスタイルの介護だったのでしょうか? すべてを税金で賄う措置制度の時代だったわけです。長い間、介護は思いやりや優しさ、笑顔をキーワードに日々のケアができた環境にありました。
しかし、2000年度以降、民法上の契約をベースにした介護保険契約がサービスを提供する事業者と利用者との間に結ばれ、提供される介護サービスは、消費契約法上でも、「商品」として位置づけられるようになりました。
その商品を購入するのが、消費者として権利意識や人脈、キャリアに長けた、これからの高齢者というわけです。
そうなると、より一層、「介護は心でやるもの」という視点だけではなく、介護にからむ様々な問題についての法的対応策も知識として知っておく必要があります。
とくに介護保険制度を利用する場合、保険契約という民法上の手続きが必要となります。
つまり、契約を締結できるだけの能力がいるということです。ですが、認知症の高齢者を含め、寝たきりやすべての面で介助を必要とする高齢者には、多くの場合判断能力や意思能力がなく、介護保険法の理念である「-高齢者自らがサービスを選択し、決定する」能力が、すでにない者が介護サービスを利用するという矛盾した関係が横たわっているわけです。
このように、高齢者層の質的・量的変化に伴って、さまざまな法律が関係する問題も現場レベルで多く発生しているわけです。
ですから、生活相談員クラスの方は、私法のなかでも一般法である民法領域だけではなく、消費者契約法、労働法、成年後見条項、個人情報保護法、高齢者虐待防止法、カスハラ法など、様々な法律が高齢者介護に関係してくることになりますし、また現場の介護スタッフは、変わりゆく高齢者層の急増によって、ニーズが高度化・多様化することを念頭に置いておかなければなりませんね。