2026.05.06
Q. 4月から新人のケアワーカーが入社するのに伴い、この2〜3月の間、有給(アルバイト)という形で働いてもらっています。施設の仕事に慣れてもらい、また新人の個性を引き出したいという視点から、このような入社前研修を行っています。また、当施設では新人職員の向き不向きに合わせた配属調整の関係から4月からの3か月間、試用期間を設けてもおります。 ですが、この研修期間や試用期間中に、「この職員は絶対にダメ…」といったような場合、簡単に辞めてもらうようなことはできるのでしょうか? 生活指導員という立場上、新人研修のすべてを任されてしまっているものですから。
A. そうですね。春のこの時期には、初々しい新入社員が入り、日々の業務のなかでも人が入れ替わるというタイミングですので、スタッフ個々が日ごろの業務を再度見直し、新人にどうそれを伝授(?)するのか、が問われますね。
相談にもありますように、新人研修は非常に大切な行事でもあり、メニューのメリハリから研修での到達度までを図り、「人材」を「人財」にまで育て上げる重要な期間でもあります。
介護の業界では、介護福祉士等の資格を有していない高卒者や、資格を有する専門学校・短大卒業生、そして福祉系の学部ではない四年生大学の卒業生、そして転職等で入ってくる社会人等、一言で新入社員といいましても、個性だけではなくバックボーンも異なる新人を多く迎える時期ですね。
介護業界はどこも人材不足ですから、いい新人を育て上げるだけではなく、辞めてしまうという人の流出も同時に防がなければなりません。生活相談員や研修担当の職員は、新人教育研修だけではなく、働き始めて3年未満の職員、そして中堅管理職研修、ならびに職種別の研修等、職員のモチベーションとスキルアップのために、手を変え品を変えマンネリにならないための研修が必要となります。
しかし、十分な研修を実施しているにもかかわらず、職員の感度や受容レベルがあまりにも低く、「子どもや、年寄りの世話であれば、できるかもしれない」という発想から、福祉や介護の道を選択する社員もいないわけではありません。
研修期間や試用期間中に本採用を見合わせるであるだとか、解雇せざるを得ない状況が生まれた場合の法人のリスクについて整理しようと思います。
質問にある、「研修期間や試用期間中の解雇」という点ですが、いくつかのポイントがあります。「人は使ってみなければわからない」とよく言われますが、研修期間や試用期間の前提として、施設側は求職者から履歴書を提出させ、課題レポートや教養試験を行った後、面接をし、審査を経て内定の通知を送り内諾の連絡をもらっているわけです。
とくに、課題レポートや面接等で、法人にとって益となる人材を見つけるための工夫や、仕組みができていたかという点です。「感じが良かった。真面目な雰囲気だった。」という主観も非常に大事であることは、人を扱う仕事である以上よく理解できます。ですが逆に「愛想が悪い。挨拶もできず、だらしなさを感じる」といった、これまた主観で解雇を言い渡すことはできないわけです。
では、過去の裁判事例から、試用期間中の解雇に該当するその要件を列挙しますと、睡眠不足や業務中の居眠り等で業務に集中できていないような場合、職員寮等がある場合の門限違反や、遅刻が度重なっている場合、与えられた文章での課題等が未提出だった場合、管理者が繰り返し注意するも、改まらない場合等が代表的なものです。それに対して施設側では、複数回の注意や指導をするものの改善の可能性がないと判断する相当な理由を、複数の管理者で確認できていること、「能力、勤務態度、健康状態等で不適当と認められる場合は解雇を行うこともできる」という文言が、就業規則上に明記されていること、試用期間中の指導や教育が、あらかじめスケジュール化され、効果が期待できると複数の管理者同士で確認がなされていること、などが必要となります。また付け加えて過去の裁判事例では、試用期間中の解雇を言い渡した時期(タイミング)が不適当と判断されたケースもありました。
つまり、質問にもありましたが「3か月の試用期間」中の2か月ほどで解雇を言い渡すことはできないということです。
試用期間満了までの間で評価し判断するという点です。
一般の解雇と、試用期間中の解雇との違いでいうと、労働者による弁明の機会を与えるか否かにあります。一般の解雇の場合には、本人による弁明の機会という点が非常に重要となりますが、試用期間中の解雇の場合には、あくまでも試用期間であるため、改めて弁明の機会を与える必要はない、ということです。ですから、逆に言いますと、本人に弁明の機会を与えていない分、上記にありますような研究内容やスケジュールの妥当性、評価の公平性等が重要になるんです。
実務上のポイントとしては、管理者による教育的指導の内容を、口頭だけではなく指導日誌等で文章化しておく必要があります。あとは、試用期間満了当日に解雇を告げた場合であっても、一般解雇の場合と同様、30日分の解雇予告手当の支払いを約束しなければなりません。ただ、試用期間中の解雇の要件が、同じ職場の仲間の財布からお金を盗んだであるだとか、飲酒運転等の事実があったような場合等、懲戒解雇要件に該当するようなケースでは、労働基準監督署に除外申請を行ったうえで、30日分の解雇予告手当を支払う必要はありません。
人を育てるという点は、管理者や法人トップに就く方にとって永遠の課題でもあります。東北での被災地調査の際にも耳にした意見でしたが、「頼りにしていた管理者が、家のことが心配だからと言って帰ってしまったかと思えば、日ごろあまりパッとしなかったスタッフが、思わぬ才能を発揮し法人を守ってくれた」とう声でした。平時での「仕事ができる」というスキルや、上司・法人に対する従順度・忠節度と、非常時においてのそれとは必ずしも一致しないものかもしれません。
人を育て上げ、人材を人財にまで高めていくその過程が、法人を強くするプロセスと同じであることは言うまでもありません。