2026.05.06

Q. 4月から入ってくる新入社員の研修のために2月からアルバイトのような形態で研修期間を設けながら、来年度からの業務に慣れてもらおうとしているのですが、今の段階でも「鬱症状ではないのか…?」と感じるスタッフ予備軍も複数いる状況です。 法人から本人に対して内定を出し、健康診断書の提出は入職までにということなんですが、後日提出された健康診断で新たに鬱や精神疾患などの疑いがあるような場合、どうすればいいんでしょうか?

A. 「どうやって業務としての介護労働を遂行してもらうか」よりも、「ちゃんと出社し休まず、仕事をさせるのか…」。

人員配置上の問題もあろうかと思いますし、また勤務のローテーションの関係もあろうかと思います。

これまでもそういった傾向はありましたが、介護スタッフのメンタル面について、彼らはそれほど屈強ではない、と私個人も思っています。だいたいにおいて、介護労働に求められる特徴としましても、「優しさ」や「笑顔」、「思いやり」といった感情面が、採用段階で基礎学力よりも重視されてきた傾向は否めないところだと思っています。

私も介護スタッフを養成する教育機関で勤務しているわけですが、入学試験のための面接で「どうして介護を…」と尋ねた際、「ありがとう、と言ってもらえる仕事だから…」「お年寄りや子どもが好きだから…」といった返答が非常に多く、自らの癒しを高齢者や子どもに求めているのか…、と思いたくなるシーンもままありました。

しかし、実際の現場では「ありがとう」どころか、罵声やまた暴力を振るわれるシーンも多くありますし、またスタッフ同士の人間関係も、チームによる協力体制が求められますから、コミュニケーションを含めた「愛される方法や、可愛がってもらえる術」を学んでおく必要があります。

また、昨今の法改正や利用者を含めた家族関係からいっても、介護スタッフ個々に説明責任やコミュニケーション能力が必要とされます。ですから、質問にあるように、これらが習得できない介護スタッフにとっては、鬱症状や精神のバランスを崩す可能性が非常に高くなるわけです。

話を戻しましょう。

まず、採用予定者に対する健康診断の実施、診断書の提出は、労働安全衛生法で定められています。介護スタッフの健康状態を把握し、個々に応じた配属を行う上でも管理者側が知っておくべき情報だと思われます。

具体的には、身体的、精神的な過去の病歴といった既往歴の項目、過去の業務歴の項目、身長、体重、視力、聴力、胸部エックス線検査、血圧、採血、尿検査や心電図検査、そして自覚症状についても必要な項目として考えられます。

ですが、鬱症状などについては、上記の項目での数値的なものからは判断できないものですから、「採用してから、あとで困った…」という場面に遭遇するわけです。

過去の裁判事例や労務管理上のガイドラインについても、鬱症状の社員に対する明確な対処の仕方は確立されていません。ましてや、一般職種とは違い介護スタッフの場合に関しては、利用者への個々の介助が業務になるわけですから、密室性が高くかつ利用者の判断能力も低下しており発言ができない、となると業務に大きく支障が出るだけではなく、業務上の監督に死角が生じ、なんらかの問題が発覚した場合には取り返しがつかない事態にまで発展していることが考えられます。

今回の質問で、難しいと思った点は、「内定を出している」という点です。「内定」とは、法人側がその人を欲しいとプロポーズし、プロポーズをされた労働者側が「はい、お願いします」と承諾をした関係のことを指します。それに引き替え内定の前に出す「内々定」というのもあり、法人が採用を予定しているだけのレベルという手続き上の段階も、今後の採用場面で活用に値するかもしれません。

ですが、それでなくとも人の確保に四苦八苦しておられる介護現場で、有名ブランドの企業のように募集に人が殺到し、内々定からスタートさせるような事業所はまず少ないと思います。そして、内定を出す、出さないに関係なく、精神疾患を含めた鬱症状のような場合には、入職時の健康診断レベルではわからないものですし、また面接などでも「明らかに異常…」というような場合でなければ、「個性的なだけ…」「育てるのが福祉や介護…」と思い、採用する側は「これからのあなたに期待する」という姿勢で臨むものですから、面接でも精神面まではわかりません。

また最近の面接では、面接を受ける者にとって不利となることは言わなくてもいい、答えなくてもいい、尋ねられなければあえて話す必要はない、という妙な原則もあるものですから、「-聞かれなかったので言いませんでした」的な主張も正当性を持つわけです。

そうなると、面接をする側は、そのあたりのこともしっかりと聞いておく必要がありますが、一方で病状等の質問がプライバシーの侵害にあたるのではないか、という思いから、実りのある面接にまで到達できないことも考えられます。

これらを回避するためには、まず面接の段階で、身体面・精神面ともに過去の病歴について尋ねるようにしてください。

この質問は、あくまでも合法で、相手を傷つけるものではありません。面接者すべてに尋ねているわけですから。

また、転職等の回数が多く、また一部に空白の期間があるような場合についても、その理由を聞くことも許されます。そして内々定を出したうえで健康診断を実施し、法人側として健康診断の結果のいかんによっては再検査をお願いする場合もあること、そして検査結果によって採用の可否を判断すること、の説明を法人側が行えば問題にはなりません。

もちろん再検査や、検査結果による不採用の場合には、その理由を労働者側に正確に伝えることは言うまでもありません。私が多く接したこれまでの介護スタッフは、みな素直で、笑顔が良く、そして自己犠牲の精神に富んでいる若者がほとんどでした。ですが、その一方で自らを隠す(言わなくてもいいこと)術に慣れていない職員も多かったような気がします。

そして「履歴書」の半分程度は嘘である、と思った方が良いでしょう。多くの転職を繰り返している場合、直近の勤務先でなければ、数年間をまとめて…という場合も多く見てきました。

ただ、何の非のつけどころもない人が、介護現場にやって来ることも稀でして、「-この人手不足で選んでいる場合ではない…」というのも本音では理解できます。

人を採用する、というのは、結婚と同じかもしれません。一緒に暮らしてみなければわからない。一緒に仕事をやってみなければ、分からない、というのが本音ですから。

ある法人の新入社員歓迎会で、当然のことながらアルコールで場が和み、打ち解けあえる環境作りには成功したのですが、最後に新入社員から歓迎へのお礼ということで、新入社員一人ひとりにマイクが回されたわけです。お酒で頬をほんのり紅色に染めながら「僕は、ここに来るまでの間、鬱病で仕事を転々としてきたのですが、皆さんに助けてもらいながら頑張れるような気がしてきました…」と笑顔と感動の涙でむせぶ横で、「そんなこと、聞いてない…」と言わんばかりの管理者の横顔を見ながらも、4年以上に渡り勤務し続け、いまでは介護長として頑張っている彼の姿を見ると、法人のマネジメント能力と包容力に人材の養成がかかっているんだと痛感した事でもありました。