2026.05.06
Q. 介護現場では、いまでも人材不足で求人の状況もままならない限りです。 ですが一方で、業務の怠慢や不正等があった場合については、退職してもらわなければならない状況もないわけではありません。 職員に引導を渡すときに注意しなければならない点を教えていただきたいのですが…。
A. 介護現場だけではなく、いまはどこでも人手不足ですね。
そのなかで、優れた人材を呼び入れるとともに、同時に流出も防がなければなりません。
介護や福祉の現場では、人を育てるという意識が非常に強く、人を切るということに慣れていない環境におかれているかもしれません。
また、職員採用の段階で、求職者の「人となり」を面接等でも重要視するきらいがあるものですから、どんなに採用試験や面接を複雑なものにしたところで、法人にとってどれだけの価値がある人材なのかを見分けることは至難の業でしょう。
このような悩みは、一般企業でも同じことが言えます。
かつ介護現場では、モノを作ったり売ったりする作業ではないものですから、製造ノルマや販売ノルマの達成という視点から、昇格も含めて降格や、ひいては解雇をする基準がそもそも設定しにくい職種でもあります。
つまり仕事の成果を、数字で評価しにくい部分は否めません。
ですが、業務上での著しい怠慢や不正があった際には、法人としてのルールに則ったかたちで引導を渡すことも一方では必要になります。
この点を曖昧にしていると、他の職員へのマイナスの影響が増大し、違った意味での労務管理上のトラブルが発生する要素にもなりかねません。
ここで紹介する主な争点は、転倒回避義務違反に係る債務不履行ですが、それよりもその背景に何があるのかを探っていきましょう。
今回は、退職の中でも解雇処分について、法人側リスクヘッジのためのポイントを整理しておきます。
相談の内容にあります「業務の怠慢や不正」というものですが、業務の怠慢に関しては、無断欠勤や出勤不良、そして「ちょっと外出してきます」といってなかなか戻ってこない職場離脱等が考えられます。
そのようなことが度重なり、また上席にある者が注意をしても改まらない場合に、「普通解雇」となるわけです。
くわえて、業務上の能力が欠けている場合や、病気等によって長期入院が必要となり職場への復帰が困難な場合、また職場内での協調性を著しく欠く場合などもこれに該当します。
また「不正」といった場合、「懲戒解雇」にあたるわけですが、一般的には事業所内での盗取、横領、傷害等刑法犯罪に該当するケースや、経歴や資格を詐称して採用されたような場合、正当な理由を告げないまま無断欠勤し出勤の催促にも応じないような場合、そして最近よく耳にするのですが、職員同士での金銭の貸し借りなどで職員に悪影響を及ぼしたような場合などがあげられます。
つまり、法人の就業規則等の職務規律に違反し、著しい非行があった事実を指します。
くわえて、解雇にまでは至らないような場合の職員の取り扱いについても説明したいと思います。
よく新聞等の報道で「懲戒処分」という言葉を耳にされたことがあろうかと思います。
この懲戒処分というのは、上記の解雇も含めた法人秩序への違反者に対する制裁を意味しています。
公務員の場合には、国家公務員法および地方公務員法によってその規定がありますが、公務員ではない社会福祉法人を含めた私(わたくし)の法人では、就業規則のなかに独自に盛り込まれているものです。
つまり、介護職員に対する罰則等も、就業規則に定められている範囲内で、かつ就業規則に則った手続きを経て処分を言い渡さなければなりません。
一般企業では、ほとんどの会社(法人)で労働者に対する懲戒処分の規定を就業規則に盛り込んでいます。
その種類とは、将来を戒めるのみで始末書等の提出を行わない戒告のような軽いものから、減給、出勤停止、そして最も重い処分が懲戒解雇となります。
先にも触れましたが、これらの処分を行うには、就業規則に内容等が記載されていることが条件となります。
社会福祉法人の場合には、就業規則はあるものの、処罰について違反したとされる具体的な内容まで想定していないところが多いように思われます。
つまり、懲戒処分の種類や程度、処分にあたる具体的な条件についてです。
過去の判例をみても、就業規則に書かれていない懲戒処分は無効という判決が主ですから。
では、法人のリスクヘッジとして、職員の処分に関しどのような対策が必要になるのかといえば、一つに、どのような行為が介護職員として許されない行いであって、その行いをした場合にどのような罰が設けられているのかを、就業規則で明記しておくという点です。
二つ目には、同じ行為に対し同じ処分を下すという平等の取り扱いをするという点です。
同じ行為をした職員に対し、感情的な面から、ある人には重い処分で、ある人には口頭での注意、といったことがないようにしなければなりません。
三つ目として、一つ目と重なるところではありますが、違反行為の種類や程度と、処分との整合性・妥当性が求められます。
過去の判例でも、「処分が重すぎる」といった点で、職員から逆に訴えられたケースもありますから。
四つ目としては、就業規則に則って、適正な手続きで処分までの結論が導き出せているかという点です。
とくに違反を犯した職員からの弁明の機会を設けているかどうかという点です。
当事者からの十分な聞き取りを行っていないうえでの処分は、事実誤認を生じさせるだけではなく、懲戒権の濫用として法人は逆に労働者側から責められることにもつながりかねませんから。
つまりこの点については、単に就業規則に処分のメニューを載せているというだけではなく、厳格な手続きを経てその処分が正当であったことを法人として表明するということを意味しています。
理事長や施設長の意見としてではなく、法人としての判断であることを相手方に示さなければなりません。
社会福祉法人の場合、理事長が絶大な権限を持っていることから、現場をよく知るトップほど、介護に対する理想も高く、そして職員に対する期待も大きいものです。
職員に対する大きな期待は結構なことなんですが、一方でその情熱が、感情に任せて思わず怒鳴ってしまう、という取り返しもつかないリスクの危険性もはらんでいるわけです。
怒鳴られた介護職員が、思い違いをして労働基準監督署に駆け込んだり、また、前回の連載でも書きましたが、怒鳴られた職員がその後出社せず、数日後、うつ病であるとの診断書を持参しながら、「あなたのパワハラでうつ病になった…」と言われるリスクも十分に考えられるわけです。
おまけに、成人になった子どもに何か問題や不利益なことが生ずると、すぐさま急降下爆撃機のごとく親が学校や職場に乗り込んでクレームを言い、また就職試験にも親が付き添い面接会場にまで出向くような、完全に子離れしていない親のことをヘリコプター・ペアレント(通称ヘリペラ)といいますが、彼らが介護職員である自らの子と一緒に、労働基準法や就労規則、一般企業における労務の常識を盾に、施設に乗り込んでくることも考えられるわけです。
親離れできず、子離れできない家族が多くいますから。
職員の昇格よりも降格の方が、管理者として神経を使うのと同じように、人を採用するよりも首を切ることの方がよっぽど難しく、後々のリスクを考えなければならないものですから注意してくださいね。