2026.05.05

Q. 介護記録について、「何を書いていれば大丈夫なのか…?」わかりません。また先月、併設するデイサービスで、利用者さんの誤嚥による事故、そして入院があり、ご家族が「事故から一か月程度前の記録とケアプランを見せて欲しい」という訴えがありました。

A. 「何を記録として書けばいいのか…? どこまで記録として残さないといけないのか…? 何を書いてはいけないのか…? そして、みなさんの記録の一体どこがイケナイのか…?」について説明したいと思っています。

「なぜ、介護現場では最近とくに、『記録、記録』といわれるのでしょうか…?」最近では、DXが進化し、事業所にもデジタル機器が投入されるようになってきたことから、記録についても、以前に比べてかなり楽になってきた…とは言われるものの、実際に事故があり、家族等と面会し、状況を説明する、という作業の中で、より記録の書き方や、正確性、重要なポイント等が求められるようになります。

「来月に監査があるから…」、「神経質な上司がいるから…」という理由ではありません。

記録を書くということは、介護業務に携わる皆さんが、利用者さんとの約束を正確に守ったことを証拠として残すという意味があります。もちろん、記録を書く、残すという行為は、利用者さんの生活やニーズを知り、他の機関との連携を図り、介護サービスの連続性や個別性を担保するという役割は確かにあります。ですが、リスクマネジメントという視点からみた場合の「記録」には、介護スタッフの業務が正当なものであったというスタッフ個人を守るという発想が欠かせません。スタッフが守られれば、法人も守られ、その結果として高齢者へのより質の高いサービスが保証できる、というのが私の考えです。

では、何を記録しなければいけないのでしょうか? それは、利用者さんに対して何を約束したのか? に尽きます。皆さんの約束は、ケアプランで計画された「長期目標・短期目標」そして「実施するサービス内容」に根拠があります。つまり、ケアプランで言えば別表の第2表にあたる項目ですね。この目標や、目標を達成するための具体的なサービスを、直接的な業務として遂行するのが皆さんのお仕事になるわけです。

ということは、ケアプランで約束された目標や、その目標を達成させるための具体的な業務(介護)を行い、それを記録として残してはじめて、利用者さんとの「約束を守った」ということになります。

介護事故を含めた危機管理を専門としている私の立場からいえば、法人側が利用者さんやご家族から事故等で訴えられた場合、ほとんどのケースで負けてしまう結果となるのは、ケアプランで約束をした介護の内容を、正確に記録化されていないことで「やっていなかった」と判断されてしまう場合がほとんどだからです。

介護現場で働く皆さんは、実際には非常に真面目に、そして熱心に日々の業務を行っているといえます。では、なぜ、「やっていない」という判断を下されるのでしょうか?

それには理由として二つのことがあげられます。

ひとつは、ケアプラン(とくに第2表の「実施するサービス内容」)で約束をした目標や、その目標を達成するための具体的なサービス内容が、非常に抽象的な表現で設定されていることからくる曖昧さです。

介護事故で最も多い訴えは、「転倒や転落」そして「誤嚥」についてのトラブルです。

ほとんどの高齢者に当てはまると思われる「転倒・転落」や「誤嚥」の予測について、実施するサービス内容として確定される表現に、「歩行中や移動時はしっかりと見守る」や、「安全な食事の提供のために見守る」といった文言が頻繁に使われています。しかし、この「見守り」が業務としてどの程度の介助が必要で、どんな行為をもってすれば見守ったといえるのか、についての認識や判断が非常に曖昧なため、「見守り」のための業務を正確に遂行したのかどうか、そしてそれを記録化することにも難しさと戸惑いを覚えてしまうといった点です。

二つ目には、たとえ正確な業務を約束にもとづいて実行したとしても、記録として残されていないと、契約の相手方である高齢者の方に、「やったか、やっていなかったか」を確認することができないという点です。

介護サービスを利用する高齢者のほとんどが、認知症や寝たきりなどで判断能力が著しく低下もしくは減退している人ですから、確認のために過去の業務のことを尋ねても意味がない事は明らかですよね。つまり、介護スタッフである皆さんは、契約の相手方に皆さんの業務の履行を確認できない人との間で約束をしているものですから、皆さん自身にすべての証明責任があるということになるわけです。この証明が「記録」なんです。

誤嚥をめぐる過去の裁判事例から記録についてのポイントを見ていきましょう。

これは、介護保険施設において、入所中のパーキンソン病患者が食事として提供された刺身を食し嚥下障害により死亡した事故に対し、老人保健施設を運営している法人に介護保険義務違反があるとして、損害賠償責任が認められた裁判です。
この裁判事例では、過去の介護事故裁判で例を見ないほど、介護業務と記録についての詳細な分析を弁護人や裁判所が行っている点が注目すべき点です。アセスメントやケアプラン、そしてサービス担当者会議での議事録から、業務としてどのような介護サービスを提供する必要があり、その必要に対してどのような目標を立て、専門家集団が何に基づいて、その目標を達成するための具体的な介護サービスを提供したのか、またその提供された介護サービスが妥当であったのか、を問うたものだったからです。

亡くなったのは大正7年4月24日生まれの事故当時86歳の男性であり、既往歴にパーキンソン症候群で、長谷川式認知症の結果もかなり悪い高齢者でした。昼食として提供された刺身を誤嚥して窒息し心肺停止状態となり、その4ヶ月後に心不全で亡くなられたケースです。主な争点としては、刺身を常食で提供したことについての過失をめぐってです。

以下、介護提供までのプロセスとその決定過程について、説明したいと思います。

要介護3と認定を受けた高齢者は、老人保健施設と介護契約を締結しますが、入所前の利用者ならび家族との打ち合わせでも、男性が食事時にむせることがあるとの指摘を家族が行い、食事について家族は全粥きざみ食の提供を希望したことが、医師の書面に残されていました。

結論的には、施設入所から事故発生までの一年間にケアプランの見直しを合計5回行っていますが、常食での提供をしながらも、施設サービス計画書にはいずれも「男性について誤嚥機能の低下が見られる。嚥下障害があり食事や水分摂取に時にムセが見られる」など、誤嚥の危険性が高い旨またはそれと同視できるような記載が継続的にありました。

これに対して裁判所の判断は、とくに刺身を常食で提供したことの過失について、まぐろは筋がある場合には咀嚼しづらく噛み切れないこともあるため、嚥下能力が劣る高齢の入所者に提供するのに適した食物とはいい難く、介護職員は利用者の嚥下機能の低下、誤嚥の危険性に照らせば、利用者に対しそのような刺身を提供すれば、誤嚥する危険性が高いことを十分予測し得たと認められる、と判断しました。

また利用者が合計35回にもわたりこの四品(寿司、刺身、うな重、ねぎとろ)を常食で摂取したという事実はあるものの、それは単なる結果論に過ぎないとしたうえで、利用者自身の強い希望があったとしても、安易に本件四品目を常食で提供するとの決定をすべきではなかったとも、裁判所は付け加えています。

そして常食での摂取も可能な場合(時期)も若干あったにもかかわらず、施設サービス計画書の「サービス内容」に「誤嚥に注意した見守り」とのプランを立てたことは、実際の利用者の状態とは異なるものの「職員の注意を喚起するための記載」と施設側は主張しましたが、「…注意喚起のためとはいえ、およそ存在しない症状を記載するとは考えられず、利用者には少なくとも職員の注意喚起が必要な程度には嚥下機能の低下や誤嚥の危険性があったものと認められる」として裁判所は施設側の主張を退けました。

この裁判では、5回のケアプランの見直し、「長期・短期目標」の設定、「サービス内容」を前後のサービス担当者会議の議事録まで引っ張り出して、ケアの妥当性と記録との整合性を明らかにした事例でした。

いかがでしょうか?

「長期・短期目標」や「実施するサービス内容」と、実施する介護行為そして記録の関連性が理解できたかと思われます。

つまり、「何を書くのか、どこまで書くのか、今の記録の何がイケナイのか」が分かっていただけましたでしょうか?

最後に、「監査では、記録について何も言われなかったので、自信をもっています」と豪語される法人トップもいらっしゃいますが、それはリスクマネジメントという視点からみると不十分です。

なぜなら、監査で求められる記録と、「いくら慰謝料を取るか」という損害賠償で耐えられる記録とは、視点が全く違うということを覚えておいてください。