2026.05.06
Q. 利用者やご家族に対しての「説明責任」の果たし方以前に、職場の同僚に対する説明の仕方と言いますか、指導の仕方に悩んでいます。先日も、「それって、パワハラだよね…」と業務上の注意(指導)を受けた職員同士が、別の場所で話しているのを小耳にはさみました。こちらとしては、本人のためと思い言葉を選びながら注意をしたつもりでしたが…。 同じ職場で働くスタッフに対して、どのように指導といいますか、注意をすれば真意が通じるものなのか。
A. 「誤解のない注意の仕方、指導の仕方」ということですね。
先回の「説明責任」をめぐる記事のところでもお話ししましたが、入社したばかりの若い介護スタッフと、相談者である生活相談員のあなたとでは、おそらく教育のされ方と言いますか、育てられ方、鍛えられ方の環境が大きく異なるんだと思って下さい。
今の若者のコミュニケーションツールと、現場で求めているそれとの違いと同じかも知れません。
私も毎日、20歳そこそこの大学生とコミュニケーションをとらなければならない立場ですが、彼らは自宅内で親とのコミュニケーションでさえ、携帯電話のメール(LINE)で必要なことを伝えるというくらいですから…。
なので、若い部下にとって、上司であるあなたから説明を求められたり、また考えを伝えるよう場を設けられたとしても、「十分に、そして正確に伝える」ことに慣れていないと考えておいて下さい。
上席にある者に対しての敬語がなっていないのとよく似ているのかもしれません。考えて敬語を使っていないわけではなく、敬語を使う環境を避けていた、また学校等の教育現場でも教師に対してそこまでの敬語を使わなくても許されてきた環境が長かった、と考えて下さい。ましてや、家庭の中での敬語などは論外と言ったところでしょう。その延長線上に職場が存在するわけです。
話を元に戻します。
上席にある者として、必要な注意や指導が、パワハラととらえられてしまうほど、残念なことはありません(本当にパワハラであれば別ですが…)。
よくあるケースとしては、職員がうつ病になり、仕事が続けられなくなりました。その原因は、上司のパワハラにある、といった労務管理上の訴えです。当然、管理者層にある者としては、いまのスタッフに気を配りながら育てるという責務があります。しかし、「相手のことを思って、注意をしたのに、パワハラとは…!」という事態は避けなくてはなりません。
このあたりの微妙なニュアンスは、セクハラと似ているかもしれません。つまり、それを受けた相手側の反応によって、同じ注意や叱責であったとしても、正反対の意味をなすということです。
適切な指導や教育と、立場的な上下の関係を利用した威圧との違いについて、厚生労働省がガイドラインを出したこともありました。その背景としては、職場内でのいじめや嫌がらせによって、メンタル面で不調になった精神障害の労災認定基準にあるようですが、パワハラの定義を、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と考えているようです。具体的には、
1、身体的な攻撃(暴行・傷害)、
2、精神的な攻撃(脅迫・暴言等)、
3、人間関係からの切り離し(隔離・仲間外れ・無視)、
4、過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨 害)、
5、過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を 命じることや仕事を与えないこと)、
6、個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)としています。
一方、民法上ではパワハラといった条文はなく、「不法行為」にあたり、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する」ことに属すると解されています。
過去の判例などから、施設としてどのような対応をすべきなのかと言いますと、例えば会議等、皆のいる前である特定の部下を上司が大きな声で叱責するといったことがあり、それがもとで出勤できなくなり退職してしまったような場合、叱責とうつ病との因果関係についても、「まわりの人がいる面前での叱責により、配慮に欠ける行為」という視点から判断しています。
パワハラに関する過去の判例のポイントを整理すると、上司が部下を他の職員の前で叱責したような場合、それもまた他の職員にも聞こえるような大声で怒鳴りつけるような行為等があった場合、不法行為にあたり「配慮に欠ける」と判断される可能性が高いということです。
つまり、叱責することがいけないのではなく、「他の職員の前で、大きな声で叱る」といったような、見せしめ的でかつ感情を露わにしたような言動が、部下に「パワハラを受けた」と思わせてしまうわけです。
ですから業務上のことで、怒っていることを表現するのではなく、怒っていることを冷静に伝えることが必要と言うことです。
少し前の職場環境であれば、指導や職員の育て方でも、多くの職員の前であえて叱りつける、いわゆる見せしめ的な指導の仕方も、叱る相手を選んで、後からフォローするというやり方が効果的であり、またそれが許された社会環境も存在していました。
しかし、いまの労働環境は、今回の相談にありますパワハラだけではなく、セクハラやDV(ドメスティック・バイオレンス)、そしてストーカー等、法律の枠外とされてきた、そもそも人間関係上の「感情」が、当事者間で解決できなくなり、すべてを法律で規定しなければならなくなった「法化社会」の到来によって、「感情」を「感情」としてではなく、「感情」を「伝える」もしくは「説明」する努力と能力が、管理職にある者には必要ということです。