2026.05.06

Q. 最近、全国各地で地震が起きています。東日本大震災の頃を思い出しますが、その時も、職員が津波で流されたりして多くのスタッフが亡くなりました。今後また大規模な自然災害が発生した場合、働く職員を守る必要がありますが、限界もあります。職員の家族(遺族)などから訴えられるような場合を考え、具体自然災害が的に何を準備しておけばいいんでしょうか?

A. そうですね。あれから15年以上が経ち、その間にも非常に多くの裁判がありました。

具体的には、小学生や幼稚園の子どもを亡くした保護者が、教育機関である学校法人を相手取って係争中というものが目立ちます。また、「—どうしてうちのおじいさんが、デイサービスの帰りに送迎車ごと津波にのみこまれ死んでしまったのか…、送迎ルートに誤りはなかったのか…」といった訴えも数は少ないものの存在しました。

今回の相談は、利用者の家族ではなく、職員の家族(場合によっては遺族)からの訴えであることから、「身内同士での争い」という構図になります。

予想はしていたとはいえ、深刻に受け止めています。

実際の裁判事例から見ますと、東日本大震災の津波で入所者や職員ら63人が死亡・行方不明になった宮城県内の高齢者施設で、当時27歳と36歳の女性職員が津波に流され死亡し、遺族である家族7人が、施設を運営する社会福祉法人に対し慰謝料など約1億4,300万円の損害賠償を求めたものがありました。

この裁判での争点は、多岐にわたるのですが、

①施設側は、気象庁の発表で施設周辺に大津波が来ることを知りながら、直ちに避難しなかった点。

②入所者の多くが介護の必要性の高い高齢者であるにも関わらず、避難用の車両等の整備が不十分だった点。

③防災マニュアルが周知されておらず、津波に対する定期的な訓練を怠っていた点。

これらから、施設側の安全配慮義務違反が争われると考えられます。

皆さんの施設が今後、大災害で被災し、利用者や職員が亡くなった場合、その遺族から上記のような点で回答を求められるということです。裁判に持ち込まれるか否かは別として、当然のことながら考えておかなくてはならない項目を、今回の裁判の争点に沿って箇条書きにしてみます。

① 大津波警報が発令されてから、直ちに避難するまでに考えておかなければならない点。
・まず「緊急地震速報」が発令されてから、5〜10秒以内に震度5弱以上の地震が来ることが予想されるが、揺れが治まった後の行動が項目       として挙がっているか。
・余震が続いていると思われるが、館内放送等を通じて、誰が、何を、指示するのかが項目として挙がっているか。
・施設内の被害について誰が、何を、どのように確認をするのかの項目が挙がっているか。
・施設外の状況を、ラジオ等も含めて目視によって確認する必要があるが、その役割と範囲は定められているか。
・利用者の安否確認という点で、誰が、どのレベルまでの情報を理解し、どう記録しておくのか。
・職員の安否と、出勤しているが外出しているスタッフの安否確認の方法が確立されているか。
・利用者、職員とも、彼らの家族との連絡方法と手段について考えられているか。
・どのタイミングで、誰が、何を根拠に避難指示を出すのか、法人管理者が不在の場合も考慮した判断基準を明確にしているか。
・避難する場所については、いま設定されている避難場所が適切であるのか。適切であると仮定した場合、避難場所までの距離・方法・時間・障害物等を予測しているか。
・施設の場合、籠城が望ましいが、それが適切ではなく、施設外への避難となった場合、すべての利用者を避難させるのに必要な時間、人員、手段がイメージできているか。

② 要介護者を移送するための車両等の整備
この点に関しては、一般的な高齢者施設であれば避難するための移送車両を独自で所有していることはまずありえないことから、デイやショートの送迎用リフト付車両をどう活用するのかに限定されると思われます。
・大渋滞や道路の破損等の状況を考え、避難場所までの移動に、車両を選択するべき条件が整っているのか。
・車両を選択した場合、避難場所までどれだけの数の利用者を、何台の車両に乗せ、何往復させるのか、それに要する時間が想定できているか。何回かのピストン移送を想定した場合、先に移送すべき利用者の選別はルール化されているか。
・ 移送の際に発生する利用者の状態変化等のリスクを確認しているか。またどの資格をもった職員を、どの利用者の車両に同乗させるのか想定しているか。

③ 防災マニュアルの周知と、津波に対する定期的な訓練
・災害時緊急マニュアル」等は、東日本大震災以降、改定が行われているか。
・2011年3月11日以前とそれ以後とでは、どのような点を改定し、その理由について理解できているか。またその作業や改定されたものをどう職員に周知しているか。
・マニュアル等を周知させる場合のその方法や回数が妥当であるか。
・火災を想定した訓練は消防法上でも義務化されているが、火災のみならず、津波、大豪雨、土砂災害等を想定した訓練になっているか。
・訓練の際、職員が利用者役に代り実施しているケースがあるが、訓練そのものがマンネリ化していないか。
・防災マニュアル等が、実際の行動に移しやすいものに工夫されているか。

訴状によると、2011年3月11日の地震発生直後、園長は職員らに待機を指示。その後、避難する方針に切り替えたが、施設近くの沿岸に津波が到達した午後3時50分ごろまでに避難が間に合わず、2人を含む職員20人と入所者42人が死亡、入所者1人が行方不明ということです。

地震が午後2時46分に起こり、津波が来るまでの時間が約1時間程だったことを考え合わせると、この間に上記の確認事項を行動に移し、かつ、しかるべき避難所への避難を完了しておかなければならないわけです。

今回の裁判での争点からみたリスクヘッジのポイントは以上のようでありますが、このようなポイントは、読んで理解するものではなく、実際に行動ができ、行動できるための項目を頭に叩き込んでおく必要があります。

再度、みなさんのBCP(事業継続計画)をこれらの視点から見直してください。